はじめに
ベトナムで経理を内製化し、1人目、2人目と採用を進めてきた会社が、次に直面するのが「経理チームをどう組み立てるか」という問題です。これまでの記事では、内製化の最初の一人にはチーフアカウンタント(以下、「CA」)級の人材が要ること(「ベトナムで経理を内製化するとき、最初に雇うべき経理社員像」)、そして一人経理の限界が見えたら2人目を補完役として採ること(「ベトナムの一人経理はいつ限界を迎えるか」)を整理してきました。
チームがある程度の人数に育ってくると、今度はCA一人が全員を直接見て、判断も指導も承認もすべて背負う体制に無理が出てきます。ここで検討したいのが、CAと一般スタッフの間に、スタッフの作業を一次レビューし、チームをまとめる中間層を置くことです。本稿では、役職名にかかわらず、CAと一般スタッフの間で一次レビューやチーム管理を担う人材を「No.2」と呼びます。
なお、特に中小規模の外資企業では、CAが会計・税務上の責任者であるだけでなく、スタッフ管理や業務の割り振りまで担っているケースが多く見られます。No.2を置くとは、CAが一人で抱えているこのマネジメント機能の一部を、分けていくということです。本稿は、経理組織の成長段階に沿った連作の第三回です。
1. 「2人目の経理社員」と「No.2」は何が違うのか
前回の記事で扱った「2人目の経理社員」と、今回のNo.2は、役割が異なります。ここを最初に整理しておきます。
- 「2人目の経理社員」:記帳、支払、請求、経費精算など、増えた実務を分担する人材
- 「CAのNo.2」:スタッフの作業を一次レビューし、質問対応や進捗管理、若手の指導を担う人材
つまり、2人目の採用は主に業務量を分散するためのものであり、No.2の配置は管理とレビューの層をつくるためのものです。2人目がCAの「手」を増やすのに対し、No.2はCAの「目」と「指導役」を分担する、と言い換えてもよいかもしれません。
チームが2〜3名のうちは、CAが全員を直接見られるため、No.2は必ずしも要りません。しかし、スタッフが増え、CAが一人ひとりの処理を確認しきれなくなってくると、CAと現場の間に立つ人材が必要になります。
2. No.2が必要になるサイン
No.2を置くべきかどうかは、人数だけで一律に判断することはできません。3〜4名でも、若手が多く、CAへの質問やレビュー依頼が集中していれば、No.2が必要になることがあります。一方で、経験豊富なスタッフが自立しているチームでは、人数が増えても中間層を急いで置く必要がない場合もあります。
人数よりも、次のような兆候が重なってきたかを見た方が確実です。
CAがすべての仕訳や資料を直接確認している
スタッフが処理したものを、CAが一つひとつ最後まで確認しているなら、その確認作業がCAの時間を圧迫します。本来はCAが重要項目に絞って見られるよう、間に一次レビューを入れたいところです。
スタッフからの質問がCAに集中している
「この処理はどうすればいいか」という日常的な質問が、すべてCAに向かっている状態です。若手が多いチームほどこうなりやすく、CAは自分の業務を中断して対応し続けることになります。
月次決算の一次レビューを担う人がいない
決算のたびに、CAが全員の作業を最後に一人でレビューしていて、そこがボトルネックになっている場合。一次レビューを担うNo.2がいれば、CAは最終確認に集中でき、締めは早く、安定します。
CAが不在になると業務判断が止まる
休暇、出張、産休のたびに、判断を要する業務が止まってしまう。CAを補佐し、いざというときに代役を務められる人がいないことは、業務継続性のリスクです。CAの長期不在の影響については、別稿「チーフアカウンタントが産休に入るとき」でも触れています。
CAが税務・本社・監査対応に時間を使えていない
CA本来の仕事である税務判断、本社報告、監査・税務調査への対応に、日常のスタッフ対応が食い込んで手が回らない。これはCAが疲弊していく典型的な入り口でもあります(「ベトナムでチーフアカウンタントが疲弊する会社の共通点」参照)。
3. どんなNo.2が必要か ― 3つのタイプ
「No.2」と一口に言っても、会社が必要とする人材は一つではありません。何を任せたいかによって、少なくとも次の3タイプに分かれます。
タイプ1:日常業務のリーダー
スタッフの質問対応、進捗管理、一次レビューを担う人材です。実務力と指導力が中心で、CAと同等の税務判断力までは必須ではありません。チームの人数が増え、CAが日常の管理に追われている場合に、まず必要になるのがこのタイプです。
タイプ2:技術面の副責任者
月次・年次決算、税務申告、監査対応などについて、CAの代わりに一定の判断ができる人材です。CA不在時のバックアップを重視する場合に必要になります。タイプ1より高い専門性が求められます。
タイプ3:将来のCA候補
当初は一次レビューやスタッフ管理を担い、徐々に税務判断、本社報告、外部対応まで引き継いでいく人材です。CAの後継を社内で育てたい場合の選択肢です。
自社がどのタイプを求めているかを先に決めておくと、人選も、育成の道筋も定まります。
ここで一つ、見落とされがちな点があります。実務ができることと、人をまとめられることは、別の能力だということです。処理は正確でも、後輩の指導や、CAとスタッフの間に立った調整が苦手な人もいます。たとえば、自分の担当業務は完璧にこなすものの、質問されると「自分でやった方が早い」と抱え込んでしまい、若手が育たない、というケースです。No.2に求めるのは、実務力に加えて、この「間に立ち、人を動かす力」です。昇格させる場合は、本人にマネジメントの意思があるかも確認しておきたいところです。
4. 役割と権限をどう分けるか
No.2を置くうえで最も実務的に重要なのが、CA・No.2・一般スタッフの役割と権限を、あらかじめ分けておくことです。ここが曖昧だと、二重チェックの非効率や、責任の所在の混乱が生じます。
一例として、次のような分け方が考えられます。会社の規模や業種によって最適な形は変わりますので、あくまで一つの目安です。
| 業務 | 一般スタッフ | No.2 | CA |
| 記帳・証憑確認 | 作成 | 一次レビュー | 重要項目のみ確認 |
| 月次決算 | 担当業務を締める | 進捗管理・勘定科目レビュー | 最終レビュー |
| スタッフからの質問 | ― | 日常的な質問に回答 | 税務・重要判断 |
| 税務・監査対応 | 資料準備 | 資料の取りまとめ | 方針判断・外部対応 |
| 休暇時の対応 | 通常業務 | チーム運営を代行 | 必要時のみ関与 |
たとえば、製造業の5名体制で、CAが税務・年度決算・本社報告・監査対応を担当し、各スタッフが買掛(AP)、売掛(AR)、在庫、原価計算を担当しているケースを考えてみます。この体制でCAがすべての勘定科目を直接レビューしていると、月末の確認がCAに集中します。ここでシニアアカウンタントがAP・AR・残高照合を一次レビューし、CAが税務や重要な会計判断に絞って確認するようにするだけでも、締め作業の流れは大きく変わります。
こうして「どこまでをNo.2が一次判断し、どこからCAに上げるのか」を決めておくことが、No.2を機能させる鍵です。
5. 社内登用か、外部採用か
No.2を置く方法は、大きく二つあります。既存のシニアスタッフを引き上げる社内登用か、外部から経験者を採る外部採用かです。
社内登用の利点は、自社の業務や過去の経緯に精通していることと、立ち上がりが早いことです。一方で、これまで同僚だった人が、急に上下関係のある立場になることで、周囲との関係がぎくしゃくすることもあります。登用の際は、役割と権限を明確にし、なぜその人を引き上げるのかをチームに丁寧に説明することが大切です。実務力だけでなく、周囲から信頼されているか、間に立った調整ができるかも、判断材料になります。
外部採用の利点は、他社でマネジメント経験を積んだ人材を、即戦力として迎えられることです。ただし、外から来た人がすぐに力を発揮できるとは限りません。ベトナム国内の経験者であっても、自社のERPや会計ソフト、グループ報告のルール、業種特有の処理、過去の税務ポジション、社内の承認フローに慣れるまでには時間がかかります。また、外から来た人がいきなり既存スタッフの上に立つことへの、現場の抵抗も想定しておく必要があります。
6. No.2を置く前に確認したいこと
層を増やすことが、常に正解とは限りません。No.2を置く前に、次の点を確認しておくとよいです。
CAが権限を手放せるか。No.2を置いても、CAが「結局は自分が全部見ないと不安」と抱え込んでしまえば、負担は減りません。CAがどこまでを任せる意思があるのかを、事前に確認しておく必要があります。
業務が標準化されているか。CAの頭の中にしか業務のやり方がない状態でNo.2を置いても、引き継ぎに時間がかかるだけです。属人化した業務を、ある程度は文書化・標準化してからの方が、No.2は機能しやすくなります。経理チームが構造的に回っていない兆候については、別稿「ベトナムの経理チームが「回っていない」5つの症状」も参考になります。
おわりに
No.2が必要かどうかは、単純な人数では決まりません。CAへの質問やレビューが集中し、CAが本来担うべき税務判断や本社対応に時間を使えなくなっているかを見ることが大切です。
No.2を置く場合は、肩書きを先に決めるのではなく、何を一次判断させ、どこからCAに上げるのかを整理する必要があります。適切に役割を分けることで、CAの負担軽減だけでなく、決算の安定や将来の後継者育成にもつながります。本稿で、経理組織の成長段階に沿った連作は一区切りです。
FAQ
Q1. No.2は、CAと同じ資格や経験が必要ですか?
必ずしも必要ではありません。何を任せるかによって変わります。日常の一次レビューやスタッフ指導が中心なら、実務に精通し、チームをまとめられる人であれば、CAと同格の資格がなくても務まります。一方、CA不在時に決算や税務申告の判断まで代われる副責任者を求めるなら、より高い専門性が要ります。将来のCA後継者として育てたい場合は、税務判断や本社対応も少しずつ引き継ぐ前提で人選するとよいです。
Q2. 既存スタッフをNo.2に登用したら、周囲との関係が難しくなりませんか?
その可能性はあります。これまで同僚だった人が上の立場になると、周囲が戸惑うことがあります。避けるには、なぜその人を登用するのか、新しい役割と権限は何かを、チームに対して明確に説明することが大切です。実務力だけでなく、周囲から信頼されているか、間に立った調整ができるかも、登用の判断材料になります。







