はじめに
ベトナムに進出した外資企業(FDI)にとって、経理人材の採用は思いのほか難しいテーマです。応募は集まっても要件に合う人が少ない、日本語や英語ができる経理経験者は希少で取り合いになる、採用してもすぐに辞めてしまう——こうした声をよく耳にします。
背景には、採用の方法(チャネル)ごとの「向き不向き」を意識しないまま、一つのやり方に頼ってしまうという問題があります。エージェントに任せきりでコストがかさむ、求人媒体に出したものの応募の質が伴わない、といったケースです。
本稿では、ベトナムで経理人材を採用する主な方法を5つに整理し、コスト・社内工数・スピード・希少人材への到達力の観点から比べます。自社のポジションや緊急度に合わせて、どう使い分けるかを考える手がかりになればと思います。
1. なぜベトナムの経理採用は難しいのか
方法の話に入る前に、前提となる難しさを押さえておきます。
まず、要件に合う母集団が薄いことです。ベトナムには経理職の候補者自体は多くいますが、外資企業が求める「英語または日本語ができ、FDI企業での月次決算・税務対応・監査対応・親会社向けレポーティングなどに慣れた経理」となると、一気に数が絞られます。とくにチーフアカウンタント(Chief Accountant / Kế toán trưởng)クラスや、日本語対応ができる人材は希少です。加えて、要件を増やすほど採用可能な母集団は急速に狭まります。英語・日本語、FDI経験、ERP経験、マネジメント経験などを複数求める場合は、提示している給与が市場水準と合っているかも重要なポイントになります。
次に、見極めの難しさです。履歴書上のスキルと実務能力にギャップがあることは珍しくなく、面接だけでは判断しきれません。採用の失敗は、そのまま経理体制のリスクに直結します(この点は別稿「ベトナム チーフアカウンタント採用・管理のリスク」もあわせてご覧ください)。
そして、定着の難しさです。経験者、とくに語学力やFDI経験を持つ人材は複数社から声がかかりやすく、採用後も市場から継続的にアプローチを受けます。そのため、採用条件だけでなく、仕事内容やキャリアパスを含めた期待値の調整も重要です。だからこそ、採用方法の選び方が結果を大きく左右します。
2. 主な5つの採用方法と向き不向き
ベトナムで経理人材を採る方法は、大きく次の5つに分けられます。求人媒体と求人プラットフォームは重なる部分もありますが、ここでは「掲載して応募を待つ掲載型」と「特定領域の候補者データベースやマッチングを使う特化型」を分けて整理します。
- 人材紹介エージェント・ヘッドハント。エージェントが要件に合う候補者を探し、紹介します。成功報酬型が一般的で、採用単価は他の方法より高くなりやすい一方、母集団の薄いポジション(チーフアカウンタント、日本語対応経理、財務マネージャー等)や、非公開で探したい採用に向きます。希少人材へのアクセスや採用スピードを重視する場合の有力な選択肢で、応募対応や一次選考の工数を外部化できるのも利点です。
- 求人媒体・総合型プラットフォーム(掲載型)。一般求人媒体(VietnamWorks・TopCV 等)に求人を掲載し、応募を待って直接選考します。掲載コストは抑えやすく、母集団の大きいジュニア〜中堅の採用に向きます。一方で、応募の絞り込み・スクリーニング・一次対応の社内工数は大きく、希少人材には届きにくい傾向があります。
- SNS・自社チャネル(Facebook・LinkedIn・自社Webサイト)。自社のSNSページや採用サイトで直接募集・発信します。広告を使わなければコストを抑えやすく、自社の認知や発信力がある会社に向きます。とくにLinkedInは、経理の管理職や語学対応人材にも届きやすいのが特徴です。一方で、フォロワーや発信力がないと母集団が限られ、投稿の運用や応募対応の社内工数がかかります。継続的な発信が前提になる方法です。
- リファラル・人脈。社員や取引先、既存の経理担当からの紹介です。紹介者を通じて事前に人物像や会社情報を共有しやすく、ミスマッチを抑えやすいのが利点で、コストも低めです。ただし、母集団が自社の人脈の広さに依存するため、安定した採用方法にはなりにくいのが実情です。
- 専門特化型の求人プラットフォーム。特定の領域(ここでは経理・財務)に絞った候補者データベースやマッチング機能を使い、企業と候補者が継続的に接点を持つ仕組みです。掲載型との境界は曖昧ですが、領域を絞る分、母集団の質と検索効率の面で、総合型媒体と直接採用の中間的な位置づけになります。特定の領域を継続的に採用したい場合に向きます。
3. 5つの方法の比較と使い分け
それぞれの特徴を、直接コスト・社内工数・採用スピード・希少人材への到達力・向いている採用で整理すると次のようになります。あくまで一般的な傾向で、実際には案件やタイミングによって変わります。
| 方法 | 直接コスト | 社内工数 | 採用スピード | 希少人材への到達力 | 向いている採用 |
| エージェント・ヘッドハント | 高め(成功報酬) | 小(外部化できる) | 案件によるが比較的速い | 高い | CA・語学対応・管理職、非公開採用 |
| 求人媒体・総合型(掲載型) | 低〜中 | 大(選考を自社で負担) | 中 | 低〜中 | ジュニア〜中堅、母集団の大きい職種 |
| SNS・自社チャネル(FB/LinkedIn/自社Web) | 低〜中(広告併用で変動) | 中〜大(運用・対応) | 不定 | 自社の発信力次第(LinkedInは管理職にも) | 認知のある会社、継続的に発信できる場合 |
| リファラル・人脈 | 低い | 中 | 不定 | 人脈の広さ次第 | 信頼できる紹介が得られるとき |
| 専門特化型プラットフォーム | 低〜中 | 中 | 中〜速い | 中〜高(領域特化) | 特定領域を継続的に採用したいとき |
使い分けの考え方はシンプルです。緊急度が高く母集団の薄い管理職ポジションはエージェント、コストを抑えたいジュニア採用は媒体や直接採用、自社の認知があるなら自社チャネル(SNS・採用サイト)で継続的に接点を作り、特定領域を継続的に採るなら特化型プラットフォーム、というのが基本の組み合わせです。コストは成功報酬などの直接費だけでなく、応募対応や選考にかかる社内工数と、採用に失敗したときのリスクも含めて考えると、判断がぶれません。多くの会社は、一つに絞るのではなく、ポジションごとに複数を併用しています。
4. 方法を選ぶ前に決めておくこと
どの方法を使うにせよ、採用がうまくいくかどうかは「募集の前に要件を固められているか」で大きく変わります。
- 求める人物像を具体化する。資格(CAの要否)、必要な言語、任せる業務範囲、そして「外注を補完する社内担当」なのか「経理を自走できる中核人材」なのかを、あらかじめ言葉にしておきます。ここが曖昧だと、どの方法を使っても選考が空回りします。
- 必須条件と歓迎条件を分ける。語学・業界経験・ERP・資格などをすべて必須にすると、対象となる候補者が極端に少なくなることがあります。「入社時点で必要なもの」と「入社後に習得できるもの」を分けて整理します。
- 経理体制の中での位置づけを決める。外注を続けながら社内に一人置くのか、内製化に踏み出すのかで、求める人物像も採用方法も変わります(別稿「ベトナム外資企業の経理:内製 vs 外注(会計事務所・BPO)」もご参照ください)。
- 予算と緊急度を整理する。いつまでに、いくらまでで、どのレベルの人材が必要かを決めておくと、方法の選択とスピードの判断がぶれません。
要件が固まっていれば、エージェントへの依頼も媒体の原稿も精度が上がり、結果的に採用の成功率とスピードが上がります。
おわりに
ベトナムの経理採用は、母集団の薄さ・見極めの難しさ・定着の難しさという構造的な壁があります。だからこそ、一つの方法に頼るのではなく、ポジションと緊急度に応じて使い分けることが、採用の成否を分けます。
まずは「どんな人物像を、いつまでに、いくらで」を固め、必須条件と歓迎条件を分けることから始めるのが近道です。そのうえで、希少人材はエージェント、母集団の大きい採用は媒体や自社チャネル、継続採用は特化型プラットフォームと組み合わせていくとよいでしょう。
なお、当社 Accounting Works は会計・財務・税務人材の採用を専門としており、経理・財務に特化した求人プラットフォームの提供も準備しています。採用方法の選定や要件の整理でお困りの際は、お役に立てるかもしれません。
FAQ
Q1. 経理人材はエージェントと求人媒体、どちらで採るべきですか?
ポジションによります。チーフアカウンタントや日本語対応経理、財務マネージャーなど母集団の薄い希少人材はエージェント・ヘッドハントが向きます。一方、ジュニア〜中堅で母集団が大きい採用は、求人媒体や自社チャネル(SNS・採用サイト)でコストを抑えられます。ただし媒体やSNSは選考や運用の社内工数がかかるため、コストは単価だけで判断しないことが大切です。多くの会社は、ポジションごとに複数を併用しています。
Q2. 採用コストを抑えたい場合、どの方法がよいですか?
直接コストだけを見れば、リファラル(人脈紹介)、求人媒体、自社チャネル(SNS・採用サイト)が低めです。ただし、リファラルは安定して候補者が得られるとは限らず、求人媒体やSNSは選考・運用の社内工数を自社で負担する必要があります。コストは単価だけでなく、採用にかかる時間と失敗リスクも含めて考えるのが現実的です。
Q3. 採用がうまくいきません。まず何を見直すべきですか?
方法を変える前に、「求める人物像」「給与水準」「採用期限・選考スピード」の3点を見直すことをおすすめします。要件が市場に対して過多だったり、提示給与が相場と合っていなかったり、選考に時間がかかりすぎたりすることは、いずれも大きな失敗要因です。とくに必須条件と歓迎条件を分けて整理すると、候補者の母集団と選考のスピードが改善しやすくなります。







