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チーフアカウンタントが産休に入るとき -ベトナムで経理を止めないための実務対応-

チーフアカウンタントの産休

はじめに

ベトナムで外資企業の経理体制を見ていると、チーフアカウンタント(以下、「CA」)の産休は決して珍しい話ではありません。

問題は、産休そのものではありません。問題になるのは、CAに業務や判断が集中したまま、半年近く不在になることです。

月次決算、税務申告、本社報告、銀行対応、監査対応。普段はCAが当然のように処理している業務でも、いざ不在になると、「誰が判断するのか」「どこに資料があるのか」「過去にどう処理していたのか」が分からなくなることがあります。

一方で、産休は突然の退職とは違い、事前に準備できる不在です。通常は数ヶ月前から分かるため、会社側の準備次第で、経理体制への影響を大きく抑えることができます。

この記事では、ベトナムでCAが産休に入る際に、企業管理者が確認しておきたい制度の基本、経理実務上のリスク、産休前後の準備について整理します。

なお、労務・社会保険の制度は改正や個別事情により取り扱いが変わることがあります。具体的な判断を行う際は、最新の法令、社会保険当局の案内、労務・社会保険の専門家への確認をおすすめします。

1. CAが産休に入ると、何が止まりやすいのか

一般の経理スタッフが産休に入る場合と、CAが産休に入る場合では、会社に与える影響が異なります。

経理スタッフの場合、主な課題は作業の引き継ぎです。誰が記帳するか、誰が請求書を確認するか、誰が支払依頼を作るか、といった業務分担の問題が中心になります。

一方で、CAの場合は、作業だけではなく「判断」と「責任」の空白が問題になります。

作業よりも、判断が止まる

日々の記帳や支払処理は、他のスタッフでも対応できることがあります。

しかし、税務上の処理方針、本社との取り決めの解釈、監査人への説明、税務調査で過去に指摘された論点などは、CAの頭の中にあることが少なくありません。

たとえば、以下のような判断です。

  • この費用は損金算入できるのか
  • この取引にFCTがかかるのか
  • 本社への請求をどの科目で処理していたのか
  • 過去の税務調査で、同じ論点をどう説明したのか
  • 監査人から毎年確認される資料は何か

こうした情報が文書化されていない場合、CAが不在になった途端に、現場が判断できなくなります。

属人化していた業務が一気に表に出る

普段は問題なく回っている会社でも、実はCA個人の経験と記憶にかなり依存していることがあります。

「この処理はCAしか分からない」
「銀行とのやり取りはCAが全部やっている」
「税務申告の最終確認はCA任せになっている」
「本社へのレポートは、CAが毎月なんとなく整えている」

このような状態でも、CAがいる間は大きな問題に見えません。

しかし、産休で半年近く不在になると、属人化していた部分が一気に表に出ます。産休は、経理体制の弱点が見えやすいタイミングでもあります。

繁忙期と重なることもある

産休の時期は、会社の都合だけで決められるものではありません。

年次決算、監査、税務申告、税務調査、本社への予算報告などと重なることもあります。特にベトナムでは、経理・税務・社会保険・銀行対応などをCAが広く見ている会社も多く、繁忙期にCAが不在になると、想定以上に現場が苦しくなります。

そのため、CAから妊娠・産休の予定を聞いた段階で、「まだ数ヶ月ある」と考えるのではなく、早めに体制確認を始める必要があります。

2. ベトナムの産休制度で管理者が知っておきたい基本

細かい手続きは人事担当者や専門家に確認すべきですが、管理者としても大枠は理解しておいた方がよいです。制度の前提を知らないと、CA本人との会話や代替体制の検討が進めにくくなります。

産休期間は原則6ヶ月

ベトナムでは、女性労働者の出産休暇として、出産前後を合わせて6ヶ月の休暇が認められています。双子以上を出産する場合は、2人目以降について、子1人につき1ヶ月が追加されます。

出産前に取得できる産休期間には上限があり、実際にいつから休みに入るかは、本人の健康状態、出産予定日、業務状況などを踏まえて調整されます。

産休手当は原則として社会保険から支給される

産休中の所得補償は、原則として会社の給与ではなく、社会保険制度から出産手当として支給されます。一定の社会保険加入期間などの要件を満たした女性労働者に対して、社会保険から給付される仕組みです。

そのため、会社側の主な課題は、産休中の給与負担そのものよりも、CA不在期間の業務をどう回すかという体制面にあります。

ただし、実際の給付要件や給付額、社会保険料の取り扱いは、制度改正や本人の加入状況によって変わる可能性があります。個別のケースでは、人事・労務担当者や専門家に確認することが必要です。

妊娠中・産休中・育児中の女性労働者には保護がある

ベトナムの労働法では、妊娠中、産休中、または生後12ヶ月未満の子を養育中の女性労働者について、雇用者からの一方的な労働契約の解除や懲戒解雇が制限されています。

CAが長期不在になるからといって、会社の都合だけで安易に契約を終了させることはできません。

この点は、後述する有期労働契約の満了時期とも関係します。特に、契約満了日が妊娠中や産休期間中に来る場合は、慎重な判断が必要です。

3. 見落とされやすい「契約期間」と「CA体制」の問題

CAの産休で実務上トラブルになりやすいのは、単に引き継ぎが足りないという話だけではありません。

労働契約の満了時期、CAの法令上の位置づけ、代替者の権限など、管理者が見落としやすい論点もあります。

有期契約の満了が産休と重なるケース

ベトナムの労働契約には、有期労働契約と無期労働契約があります。有期契約には更新回数の制限があり、長く雇用している場合には無期契約への移行も関係します。

問題になりやすいのは、CAの有期契約の満了日が、妊娠中または産休期間中に来るケースです。

一般には、有期契約の期間満了は、会社による一方的な契約解除とは別の論点として扱われます。一方で、妊娠や産休を理由に契約を更新しなかったと受け取られると、差別禁止や女性労働者保護の観点から問題になる可能性があります。

たとえば、これまで継続して更新していたにもかかわらず、妊娠・産休のタイミングで突然更新しない判断をした場合、会社側に合理的な説明が求められる可能性があります。

この論点は、法令の文言だけで機械的に判断しにくい部分です。契約満了日が妊娠中・産休中・育児中の期間と重なりそうな場合は、早めに労務の専門家へ相談した方が安全です。

CA不在中の責任体制をどうするか

ベトナムでは、企業の規模や状況に応じて、チーフアカウンタント、会計責任者、または外部の会計サービスを含めた会計責任体制を整える必要があります。

そのため、CAが産休に入る場合、単に「シニアスタッフが見る」「会計事務所に聞く」というだけでは足りないことがあります。

確認すべきなのは、以下のような点です。

  • 産休中、誰が経理・税務の最終確認をするのか
  • その人に十分な経験と権限があるのか
  • 社内で承認ルートは変更する必要があるのか
  • 銀行、税務局、監査人、会計事務所との窓口は誰になるのか
  • 法令上、代理者や会計責任者の位置づけを確認する必要があるか

特に、CAが銀行取引、税務申告、監査対応の窓口を一人で担っている会社では、この確認を後回しにすると、産休に入ってから慌てることになります。

4. 産休前にやるべき準備

CAの産休対応で一番大事なのは、産休に入る前の準備です。

産休中に何とかしようとしても、本人が休みに入った後では確認できることが限られます。産休前の数ヶ月をどう使うかで、産休中の安定度は大きく変わります。

まず、CAの業務を全部書き出す

最初にやるべきことは、CAが現在担当している業務の棚卸しです。

月次、年次、税務、銀行、給与、社会保険、監査、本社報告、契約書確認、社内承認など、CAが関与している業務をできるだけ細かく書き出します。

そのうえで、以下のように分類します。

  • 他の経理スタッフに引き継げる業務
  • 会計事務所や外部専門家に依頼できる業務
  • 社長・日本人管理者が判断すべき業務
  • CA本人でなければ分からない業務
  • 産休前に必ず文書化すべき業務

この分類をせずに、単に「引き継ぎ資料を作ってください」と依頼しても、実務上はあまり機能しません。重要なのは、何を誰に引き継ぐのかを会社側が把握することです。

判断業務を文書化する

産休前の引き継ぎで特に重要なのは、作業手順よりも判断の根拠です。

たとえば、以下のような情報です。

  • 税務上、過去に問題になった処理
  • 監査人から毎年確認される論点
  • 本社との間で合意しているレポート方法
  • 特殊な取引先との請求・支払条件
  • 銀行や税務局との過去のやり取り
  • 会計事務所に確認すべきタイミング
  • 社内で誰の承認が必要か

作業手順だけであれば、周囲が見ながら対応できることもあります。しかし、判断の背景が分からないと、同じ処理を継続してよいのか、変更すべきなのかが分かりません。

CAの頭の中にある判断を、産休前にできるだけ外に出しておくことが必要です。

代替体制を早めに決める

CAの産休中の体制には、いくつかの選択肢があります。

  • 社内のシニアスタッフを一時的に引き上げる
  • 会計事務所に確認・レビューの範囲を広げてもらう
  • 産休カバー目的で有期の経理人材を採用する
  • 本社側の経理・財務部門に一部確認を依頼する
  • 日本人管理者が一時的に承認・確認を増やす

どれが正解かは、会社の規模、取引量、既存スタッフの能力、CAへの依存度によって異なります。

ただし、避けたいのは、「とりあえず今いるスタッフで何とかする」という決め方です。これでは、現場スタッフに過度な負荷がかかり、ミスや離職につながることもあります。

代替体制は、産休直前ではなく、できれば数ヶ月前から試運転しておく方が安全です。

産休前に一度、月次決算を代替体制で回してみる

可能であれば、CAがまだ出社しているうちに、代替者中心で月次決算を一度回してみることをおすすめします。

実際にやってみると、資料の場所が分からない、承認者が曖昧、会計事務所への依頼方法が分からない、本社報告の細かいルールが不明、という問題が出てきます。

CAがまだいる段階であれば、その場で確認できます。産休に入ってから同じ問題が出ると、確認に時間がかかり、本人にも負担をかけてしまいます。

5. 産休中・復職時の実務対応

産休前に準備をしていても、産休中や復職時には注意すべき点があります。

特に、産休中の連絡、復職後のポジション、代替者との関係は、管理者の対応次第で本人の復職意欲や社内の雰囲気に影響します。

産休中に連絡しすぎない

引き継ぎが不十分だと、産休中のCAに確認したくなる場面が出てきます。

しかし、産休中の従業員に頻繁に業務対応を求めることは避けるべきです。本人の体調や育児への負担になるだけでなく、会社に対する不信感にもつながりかねません。

どうしても確認が必要な場合でも、連絡窓口や頻度をあらかじめ決め、緊急性のある内容に限るべきです。

理想は、産休中にCAへ連絡しなくても経理が回る状態を、産休前に作っておくことです。

復職後のポジションに配慮する

産休から復職する女性労働者は、原則として産休前と同じ仕事に戻ることが想定されます。

産休中に代替者を置いた場合でも、復職するCAのポジションや待遇について、不利益な取り扱いにならないよう注意が必要です。

たとえば、代替者が想定以上にうまく機能したとしても、それを理由に復職後のCAの権限や待遇を下げるような対応は避けるべきです。法的な問題だけでなく、会社への信頼や人材定着にも影響します。

復職直後に全業務を戻しすぎない

復職後、すぐに以前と同じ業務量をすべて戻すと、本人に大きな負担がかかることがあります。

特に、育児との両立が始まる時期には、残業や突発対応が難しくなることもあります。復職後しばらくは、業務を段階的に戻す、繁忙期のサポートを残す、在宅勤務や時短勤務の可否を確認するなど、現実的な調整が必要になる場合があります。

もちろん、会社としてすべての希望に対応できるとは限りません。ただ、復職直後から以前と同じ前提で扱うのではなく、本人の状況と会社の業務をすり合わせる姿勢は重要です。

代替者との役割整理も忘れない

産休中に代替者を立てた場合、復職後に役割が曖昧になることがあります。

代替者が一時的に担っていた業務をどこまでCAに戻すのか、どの業務はそのまま分担するのか、承認権限はどう戻すのかを整理しておかないと、社内で混乱が生じます。

場合によっては、産休をきっかけに、CA一人に集中していた業務をチームで分担する体制へ変えることもできます。

産休前の状態にそのまま戻すのではなく、復職後の経理体制を見直す機会として使うことも大切です。

6. 採用・外部サポートを検討する場合の考え方

CAの産休に備える方法は、社内対応だけではありません。

会社の規模や業務量によっては、産休カバーのために有期の経理人材を採用したり、会計事務所のレビュー範囲を一時的に広げたりすることも選択肢になります。

ただし、採用する場合も、単に「CA経験者を探す」だけではうまくいかないことがあります。

確認すべきなのは、以下のような点です。

  • 産休カバーという期間限定の役割を理解しているか
  • 月次決算、税務申告、本社報告のどこまで対応できるか
  • 既存スタッフと協力して働けるか
  • 復職予定のCAと役割が衝突しないか
  • 会社側が求めるレベルに対して、報酬条件が現実的か

短期間の採用では、完璧な候補者を探すよりも、「どのリスクをカバーしたいのか」を明確にすることが重要です。

たとえば、税務判断が不安なのか、本社報告が不安なのか、月次決算の締めが不安なのかによって、必要な人材や外部サポートは変わります。

多くの会社では、社内対応、会計事務所、外部人材、求人プラットフォームなどを組み合わせながら、自社に合う形を検討することになります。

おわりに

チーフアカウンタントの産休は、会社にとって小さな出来事ではありません。

特にベトナムでは、CAが経理・税務・銀行・本社報告・監査対応まで広く担っている会社も多く、半年近い不在がそのまま経理体制の不安定さにつながることがあります。

ただし、産休は突然の退職とは違い、事前に準備できる不在です。

CAの業務を棚卸しする。判断業務を文書化する。代替体制を決める。契約期間やCA体制を確認する。産休中の連絡ルールや復職後の役割も整理する。

こうした準備を早めに進めておけば、産休中の混乱はかなり抑えられます。

CAの産休は、「休みに入る人の問題」ではなく、「会社の経理体制の問題」として考えるべきテーマです。属人化していた業務を見直し、チームで回る経理体制に近づける機会として捉えることが、管理者にとって大事なポイントだと思います。

FAQ

Q1. 産休中のチーフアカウンタントの給与は、会社が負担するのですか?

原則として、産休中の所得補償は会社の給与ではなく、社会保険制度から出産手当として支給されます。受給には、一定の社会保険加入期間などの要件があります。

そのため、会社にとっての主な課題は、給与負担そのものよりも、CA不在期間の業務をどう回すかという体制面にあります。

ただし、給付額や要件は制度改正や本人の状況によって変わる可能性があるため、個別のケースでは社会保険当局や専門家への確認をおすすめします。

Q2. CAの有期契約の満了が産休期間と重なります。契約を終了してよいですか?

この判断は慎重に行うべきです。

有期契約の期間満了は、会社による一方的な契約解除とは別の論点として扱われることがあります。一方で、妊娠や産休を理由に契約を更新しなかったと受け取られると、差別禁止や女性労働者保護の観点から問題になる可能性があります。

契約満了日が妊娠中、産休中、育児中の期間と重なる場合は、会社だけで判断せず、早めに労務・社会保険の専門家に確認することをおすすめします。

Q3. 産休中の代替要員は、どう確保するのがよいですか?

会社の規模、業務量、既存スタッフの能力によって変わります。

社内のシニアスタッフを一時的に引き上げる、会計事務所のサポート範囲を広げる、有期の経理人材を採用する、本社側に一部確認を依頼するなど、複数の選択肢があります。

重要なのは、産休直前に慌てて決めるのではなく、CAがまだ出社している段階で代替体制を試しておくことです。

Q4. 産休中のCAに業務連絡をしてもよいですか?

原則として、産休中の従業員に頻繁な業務対応を求めることは避けるべきです。

どうしても確認が必要な場合は、緊急性のある内容に限定し、連絡窓口や頻度をあらかじめ決めておく方がよいです。

本来は、産休中に連絡しなくても回る状態を、産休前に作っておくことが望ましいです。

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この記事の著者

Accounting Works 編集部

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