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経理チームの不調をどう見抜くか – ベトナム現地法人で確認したい5つの症状-

経理チームが回らない会社に共通する特徴

はじめに

ベトナムで現地法人を管理していると、経理チームについて「大きな問題は起きていないが、何となく回っていない」と感じることがあります。
月次報告が少し遅い。
毎月、同じような確認が発生する。
チーフアカウンタントや経理マネージャーがいつも忙しそうにしている。
ただ、明確な不正や大きなミスがあるわけではないため、管理者としてもどこまで踏み込むべきか判断しにくい。
経理チームの難しさは、外から見えにくい点にあります。本人たちは日々動いており、表面的には業務が進んでいるように見えます。チーフアカウンタントも、経営層に対して「チームが回っていません」とはなかなか言いにくい立場です。
しかし、経理チームの不調は、必ず何らかの形で外に表れます。最初は大きなトラブルではなく、月次決算の遅れ、修正の増加、問い合わせの集中、育成の停滞といった“小さな違和感”として出てくることが多いです。
本稿では、ベトナム現地法人の経理チームが回っていないときに見られやすい5つの症状を整理します。自社の経理体制を観察可能な事実から見直すためのチェックポイントとしてご参考になれば幸いです。

経理チームの不調は、最初は「違和感」として表れる

経理チームの問題は、ある日突然発生するものではありません。
多くの場合、月単位・四半期単位で少しずつ進行します。最初は「今月だけ忙しかった」「監査対応があった」「本社から追加依頼が来た」という説明で済まされます。しかし、それが半年、1年と続くと、単発の問題ではなく、チームの構造そのものに負荷がかかっている可能性があります。
特にベトナムの外資系企業では、経理チームが単に会計処理だけをしているわけではありません。
本社報告、現地会計、現地税務という三つのロジックを同時に処理する必要があります。日本本社や海外本社が求める管理資料、ベトナム会計基準に基づく帳簿、税務当局に説明できる証憑や申告内容。これらは似ているようで、必ずしも同じ考え方では整理できません。
そのため、外から見ると「経理処理が遅い」ように見えても、実際には複数の基準や関係者の間で調整している場合もあります。
だからこそ、管理者が見るべきなのは、誰が悪いかではありません。
まず見るべきなのは、チームにどのような症状が出ているかです。

症状1:月次決算のクロージング日が少しずつ後ろにずれている

最初に確認したいのは、月次決算の完了日です。
経理チームが安定している会社では、月次クロージングのスケジュールが大きく崩れません。多少の繁忙月はあっても、翌月何営業日目に数字が固まるのか、ある程度の見通しがあります。
一方で、チームが回らなくなっている会社では、クロージング日が少しずつ後ろにずれていきます。
以前は翌月5営業日で締められていたものが、7営業日、8営業日、10営業日と遅くなる。毎月の説明は「今月は忙しかった」「資料が遅れた」「確認事項が多かった」かもしれません。ただ、それが続いている場合は、単なる一時的な遅れではなく、業務量、確認プロセス、人員配置のどこかに無理が出ている可能性があります。
ここで大事なのは、直近1ヶ月だけを見ないことです。
過去12ヶ月の月次決算完了日を並べてみると、傾向が見えます。
一時的に遅れた月があるだけなのか。
それとも、半年以上かけてじわじわ遅くなっているのか。
後者であれば、チームの処理能力が業務量に追いついていないサインとして見るべきです。

症状2:同じ種類の修正が毎月繰り返されている

修正仕訳があること自体が、直ちに問題というわけではありません。
ベトナムでは、月次決算、四半期レビュー、年次監査、税務確認の過程で、一定の調整が入ることは珍しくありません。特に外資企業では、本社報告と現地会計・税務の整理方法が異なるため、調整が発生することもあります。
問題は、同じ種類の修正が毎月、または毎年繰り返されている状態です。
たとえば、毎月同じ勘定科目で修正が入る。
監査のたびに同じ論点を指摘される。
在庫、売上、費用計上、未払費用、為替差損益など、特定の領域で毎回調整が発生する。
それにもかかわらず、翌月以降の処理に改善が反映されていない。
この場合、単なるミスではなく、チェックプロセスが機能していない可能性があります。
経理チームが本当に回っている会社では、修正が発生した後に「なぜ起きたのか」「次回から誰がどこで確認するのか」が整理されます。逆に、回っていない会社では、修正すること自体が日常業務になり、原因の整理まで手が回りません。
管理者としては、修正仕訳の件数だけでなく、同じ種類の修正が繰り返されていないかを見ることが重要です。

症状3:「それは経理に聞いてください」が社内の口癖になっている

経理チームが疲弊している会社では、経理が社内の「何でも相談窓口」になっていることがあります。
営業が契約条件を確認する。
購買が支払条件やインボイスの可否を確認する。
HRがPITや社会保険について相談する。
本社から数字や資料の説明を求められる。
輸入・在庫・通関に関する数字確認が経理に回ってくる。
もちろん、経理が社内の数字や証憑に関わる以上、他部門から相談を受けること自体は自然です。むしろ、経理が会社全体を理解していることは強みでもあります。
ただし、「分からないことは全部経理に聞く」という状態になると、経理本来の業務が圧迫されます。
特にベトナム現地法人では、チーフアカウンタントや経理マネージャーが、会計・税務だけでなく、契約、労務、総務、本社対応まで幅広く見ているケースがあります。本人が真面目で責任感が強いほど、断らずに引き受けてしまいます。
その結果、管理者からは「経理が遅い」と見える一方で、実際には経理以外の問い合わせ対応に多くの時間を取られていることがあります。
一度、経理チームに次のように聞いてみるとよいと思います。
直近1ヶ月で、経理業務に直接関係しない問い合わせや相談に、どのくらい時間を使っていますか。
この質問だけでも、経理チームの見えない負荷がかなり浮かび上がります。

症状4:新人スタッフが入社しても、チーフアカウンタントの負担があまり減らない

人を採用したのに、なぜかチーフアカウンタントやシニアスタッフの負担が減らない。
これも、経理チームが回っていない会社でよく見られる症状です。
入社して半年経っても、新人スタッフが自分の担当業務を独立して完了できない。毎月同じ確認が必要になる。チーフアカウンタントが常に横について説明している。こうした状態が続く場合、新人本人の能力だけでなく、育成の仕組みに問題がある可能性があります。
ベトナムでは、履歴書上は数年の会計経験があっても、実際の担当範囲がかなり限定されているケースがあります。買掛金業務だけ、売掛金業務だけ、インボイス処理だけ、税務申告の補助だけ、ということもあります。
そのため、採用時に「会計経験〇年」と見えていても、入社後すぐに自社の月次業務を任せられるとは限りません。
新人が育たない背景には、いくつかの原因があります。
• ジョブディスクリプションが曖昧
• 担当範囲が明確に分かれていない
• マニュアルやチェックリストがない
• チーフアカウンタントが忙しすぎて教える時間を取れない
• 採用時に期待したスキルと実際の経験がずれている
この状態でさらに人を採用しても、チーフアカウンタントの指導負担が増えるだけになることがあります。
「人が足りないから採用する」という判断の前に、まずは既存メンバーがどの業務をどこまで自走できているかを確認することが大切です。

症状5:繁忙期になると、役割分担が崩れる

経理チームの実力は、平常時よりも繁忙期に表れます。
年次決算、監査対応、税務調査、移転価格文書対応、ERP導入、本社からの追加報告。こうしたイベントが重なると、チームの役割分担が機能しているかどうかがはっきり見えます。
回っているチームでは、繁忙期でも各メンバーが自分の担当領域を持っています。チーフアカウンタントは細かい作業をすべて抱えるのではなく、判断が必要な論点、外部対応、本社への説明に時間を使えます。
一方で、回っていないチームでは、繁忙期になると全員が同じ業務に張り付きます。
誰が何を担当するのかが曖昧なまま、全員で資料を探し、全員で数字を確認し、最後はチーフアカウンタントがすべてを見直す。外から見ると「チーム全員で頑張っている」ように見えますが、実際には役割分担が崩れ、チーフアカウンタント依存がさらに強まっている状態です。
この状態が続くと、繁忙期のたびにチームが消耗します。
そして、最終的にはチーフアカウンタントやキーメンバーの離職リスクにつながります。
繁忙期が終わった後に、各メンバーが何にどれだけ時間を使ったのかを振り返るだけでも、かなり多くのことが見えてきます。

複数の症状が出ている場合に疑うべきこと

上記の症状は、一つだけであれば一時的な問題かもしれません。
しかし、複数の症状が同時に出ている場合は、経理チームの構造に歪みが出ている可能性があります。
たとえば、月次決算が遅れ、修正も増え、新人も育っていない場合、単に「経理スタッフの処理が遅い」という話ではないかもしれません。業務量、チェック体制、採用基準、育成方法、他部門からの依頼、本社報告の負荷が重なっている可能性があります。
また、経理への問い合わせ集中と繁忙期の業務集中が同時に起きている場合、チーフアカウンタントや経理マネージャーが日常的にも繁忙期にも逃げ場のない状態になっていることがあります。
ここで注意したいのは、すぐにチーフアカウンタントの能力不足と決めつけないことです。
もちろん、チーフアカウンタントや経理マネージャーのスキルに課題があるケースもあります。しかし実務上は、チーフアカウンタント個人の能力よりも、業務範囲が広すぎる、責任分担が曖昧、人員配置が合っていない、本社からの要求が多い、といった構造的な問題が背景にあることも少なくありません。
経理チームの不調は、人事問題であると同時に、経営管理の問題です。
放置すると、月次報告の遅れだけでなく、税務リスク、監査対応の混乱、資金管理の遅れ、チーフアカウンタントの離職といった形で経営に返ってきます。

まず確認したい3つの資料

経理チームの状態を確認するために、最初から大きなプロジェクトを始める必要はありません。
まずは、以下の3つを確認するだけでも十分です。

1. 過去12ヶ月の月次決算完了日

月次決算が何営業日目に完了しているかを並べます。
単月の遅れではなく、遅れが慢性化していないかを見ることが重要です。

2. 修正仕訳・監査指摘の一覧

修正仕訳の件数だけでなく、同じ種類の修正が繰り返されていないかを確認します。
特に、売上、在庫、未払費用、税務関連、為替、固定資産などに偏りがないかを見るとよいです。

3. 経理メンバー別の担当業務表

誰がどの業務を担当し、誰が確認し、最終判断を誰がしているのかを整理します。
この表を作ると、特定の人に業務や判断が集中しているかどうかが見えます。
この3つを確認したうえで、初めて「人を増やすべきか」「役割分担を変えるべきか」「外部サポートを使うべきか」「本社報告の方法を見直すべきか」を考える方が現実的です。
症状が出ているからといって、すぐに採用すれば解決するとは限りません。業務の流れが整理されていない状態で新しいスタッフを入れると、かえってチーフアカウンタントの指導負担が増えることもあります。
採用、人材紹介会社、ヘッドハンター、求人プラットフォームを活用する前に、まずは自社の経理業務がどこで詰まっているのかを整理しておくことが重要です。

おわりに

経理チームが回っていないかどうかは、外からでもある程度見抜くことができます。
月次決算が少しずつ遅れている。
同じ修正が繰り返されている。
社内の問い合わせが経理に集中している。
新人が育たず、チーフアカウンタントの負担が減らない。
繁忙期になると役割分担が崩れる。
これらは、単なる小さな問題ではありません。経理チームの構造に無理が出ているサインかもしれません。
管理者として大切なのは、問題が大きくなってから原因を探すことではなく、症状が出ている段階で気づくことです。
経理チームの不調は、チーフアカウンタントやスタッフだけの問題ではありません。本社の要求、現地の税務実務、人員配置、社内の役割分担が重なって起きることが多いです。
まずは、観察できる事実を整理する。
そのうえで、どこに負荷やリスクが集中しているのかを見る。
それが、ベトナム現地法人の経理体制を見直す第一歩になると考えます。

FAQ

Q1. これらの症状がある場合、すぐに経理に問いただすべきでしょうか?

いいえ。いきなり問いただす形は避けた方がよいと思います。
経理側も、忙しさや問題を自覚していることが多いです。そこで管理者から強く詰められると、防御的な説明になり、実態が見えにくくなります。
まずは「現状を一緒に整理したい」という形で、月次決算日、修正内容、担当業務表などの事実を集めるところから始めるのがよいと思います。

Q2. 複数の症状が出ている場合、どこから手を付けるべきでしょうか?

いきなり月次決算の短縮や修正仕訳の削減を目標にすると、原因が広すぎて議論が進まないことがあります。
最初は、経理に流れ込んでいる問い合わせを整理する、繁忙期に誰が何を担当しているかを見える化する、といったところから始める方が現実的です。
業務の流れが見えるようになると、人員不足なのか、役割分担の問題なのか、チェック体制の問題なのかを判断しやすくなります。

Q3. 経理チームの問題は、チーフアカウンタントを交代すれば解決しますか?

解決する場合もありますが、それだけで解決しないケースも多いです。
チーフアカウンタントに過度な業務が集中している、他部門からの問い合わせが多すぎる、本社報告と現地税務の調整負荷が大きい、スタッフが育つ仕組みがない。こうした状態のままチーフアカウンタントだけを交代しても、新しいチーフアカウンタントが同じように疲弊する可能性があります。
チーフアカウンタントの評価をする前に、まずはチーフアカウンタントがどのような構造の中で働いているのかを見ることが重要です。

Q4. 経理スタッフを追加採用すべきかどうかは、どう判断すればよいでしょうか?

まずは、現在の業務がどこで詰まっているのかを確認する必要があります。
単純な処理量が多すぎるのであれば、スタッフ追加が有効な場合があります。一方で、判断業務や確認業務がチーフアカウンタントに集中している場合、スタッフを増やしてもチーフアカウンタントの負担はあまり減らないことがあります。
採用を考える前に、担当業務表、チェックフロー、月次決算スケジュールを整理しておくと、どのような人材を採るべきかが明確になります。

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この記事の著者

Accounting Works 編集部

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