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日本人管理者が無意識にやりがちなベトナム経理へのNG指示 ― 経理を困らせる5つの場面と修正の考え方

経理へのNG指示

はじめに

ベトナムで日系企業の経理支援に関わっていると、現地のチーフアカウンタントや経理担当者から、「日本人の上司から言われた指示に困っている」という相談を受けることがあります。

話を聞いてみると、その多くは、日本人管理者の側に悪意があるわけではありません。むしろ、日本国内の経理運用ではごく普通の指示であり、本人としては「ちょっとお願いしただけ」のつもりであることがほとんどです。しかし、ベトナムの会計・税務制度の前提に当てはめると、その指示は経理にとって税務リスクや法令違反のリスクを伴うものになっていることがあります。

無意識のうちに出した指示が、現地経理を追い詰めたり、税務調査時の否認リスクを高めたり、チーフアカウンタント本人にとっても、職業上のリスクや心理的な負担につながることがあります。本稿では、ベトナム駐在の日本人管理者がやりがちな「無意識のNG指示」を5つの場面に整理し、それぞれの背景と修正の考え方を整理します。自社の指示の出し方を改めて振り返るきっかけになれば幸いです。

1. なぜ「日本では普通」の指示がベトナムでは問題になるのか

日本人管理者の指示がベトナム経理にとってNGになりやすい背景には、両国の会計・税務制度の前提の違いがあります。

日本では、口頭で「これ、経費で処理しといて」と伝えれば、経理担当者が判断して処理してくれる文化が根付いています。日本の税務調査は厳しいとはいえ、書面主義の徹底度合いや証憑の整備に関する運用は、ベトナムとは異なる部分があります。さらに、日本の経理担当者は「とりあえずやっておく」ことに比較的慣れており、後から確認・修正する運用にも一定の柔軟性があります。

一方、ベトナムでは、損金算入やVAT控除の要件として、VATインボイス、契約書、支払証憑などが揃っていることが厳格に求められます。さらに、チーフアカウンタントには会計記録や税務申告に関して一定の責任を負う立場が制度上想定されており、「指示されたから処理しました」では本人を十分に守れない場面もあります。

つまり、日本人管理者が「ちょっとした事務処理」と思って出した指示が、ベトナム経理にとっては「自分の責任問題に直結する処理」になっている可能性があるのです。この前提のズレを意識せずに指示を出し続けると、現地経理は静かに疲弊し、優秀な人材ほど早く離れていく、という構造が生まれやすくなります。

2. 日本人管理者がやりがちな5つのNG指示

これまで多くのベトナム現地法人の経理担当者と話してきた中で、日本人管理者が無意識に出してしまう指示には、いくつか共通のパターンがあると感じています。

NG指示1:「とりあえず経費で処理しておいて」

最もよく見られるのが、損金算入の可否や証憑の有無を確認しないまま、「とりあえず経費で」「これも費用で落としておいて」という指示です。

ベトナムでは、法人税上の損金算入には、VATインボイス、契約書、支払証憑などの要件が厳格に求められます。要件を満たさない支出は、税務調査で損金否認され、追徴税額と延滞税の対象となることがあります。「経理が経費にしてくれたから問題ない」と考えるのは、実はベトナムでは危険な前提です。

特に、交際費、コンサルティングフィー、海外送金を伴う支出、関連者間取引などは、税務当局が重点的に確認する領域です。これらについて「とりあえず経費で」という指示を出してしまうと、経理は「指示通り処理したが、税務調査で説明できない」という状態に置かれます。

NG指示2:「請求書(インボイス)は後でもらうから、先に処理しておいて」

日本では、業務を先行させて請求書を後から受け取る運用は珍しくありません。月をまたいでも「未払計上」で処理できますし、税務上も大きな問題になりにくいと感じます。

しかし、VATインボイスの発行タイミングについて一定のルールがあり、商品・サービスの内容や契約条件によって適切な発行時点を確認する必要があります。後付けで発行されたインボイス、特に期をまたいでから発行されたものは、VAT控除や損金算入の根拠として税務当局から否認されるリスクがあります。

経理は、こうしたルールを理解した上で日々の処理を行っています。そこに「請求書は後でいいから先に処理して」と指示が入ると、経理は「指示通り処理すると、後で否認されるリスクを自分が背負うことになる」と感じます。

NG指示3:「本社のフォーマットに合わせて、こちらの帳簿も修正しておいて」

連結決算や本社レポーティングの都合で、「本社の数字と合うように、こちらの帳簿も合わせておいて」という指示が出ることがあります。日本人管理者からすると、「本社と現地の数字が違うとややこしいから揃えてほしい」というシンプルな依頼です。

しかし、ベトナムの法定帳簿はベトナム会計基準(VAS: Vietnamese Accounting Standards)に従って作成する義務があり、本社要件で書き換えるべきものではありません。本社レポーティングは VAS の法定帳簿を基に「組替え・調整」して別途作成するものであり、法定帳簿そのものを本社フォーマットに合わせて修正することは、会計法令上認められません。

経理から見ると、「本社の数字に合わせるために、ベトナムの法定帳簿を書き換えてほしい」という指示は、法令違反を求められているのと同じ意味を持ちます。

NG指示4:「私が個人カードで払ったから、経費にしておいて」

出張時の支払い、急ぎの備品購入、接待費の立替などで、日本人管理者が個人のクレジットカードや現金で支払ったものを「あとで経費にしておいて」と依頼するケースは少なくありません。日本では立替精算は日常的な処理です。

ベトナムでも立替精算自体は可能ですが、損金算入や VAT 控除のためには、原則として支払先から会社名義で発行された VAT インボイスが必要です。レストランの個人名義のレシートや、外国で発行された英文インボイスのみでは、ベトナム税務上、損金算入の根拠として十分でない場合があります。

特に、海外出張時の支出、海外サービスへの支払い、現金で受け取った領収書のみの支出などは、税務調査で否認リスクが高い領域です。「個人カードで払ったから経費に」と気軽に依頼してしまう前に、ベトナムの証憑要件を満たすかを経理に確認する習慣を持つことが重要と考えます。

NG指示5:「口頭で言ったから、記録は残さなくていいよ」

日本のオフィス文化では、口頭での指示や合意で物事が進むことが多くあります。「いちいち書面にしなくても、後で必要なら確認すればいい」という運用に慣れている方も多いと思います。

ベトナム経理にとって、口頭指示のみで処理を進めることは大きな不安要因です。後日、税務調査や内部監査、あるいは経営層の交代の際に、「なぜこの処理をしたのか」と問われた時、経理担当者が「日本人上司から口頭で指示されました」と答えても、書面の裏付けがなければ十分に守られない可能性があります。

特に、例外的な会計処理、グレーな税務判断、本社との特別な合意などは、メールや稟議書などの形で記録を残す習慣を持つことが、経理本人と会社双方を守ることにつながります。

3. なぜ管理者は「無意識に」これらの指示を出してしまうのか

これらの指示は、悪意から出ているわけではありません。多くの場合、以下のような背景があると感じます。

日本の経理運用が前提として体に染みついていること

日本では当たり前の運用が、ベトナムでは制度上認められない、あるいはリスクの高い処理になることを学ぶ機会が限られていることが多くあります。

経理を「処理してくれる人」として位置づけていること

経理担当者が判断責任を負う立場にあることを十分に意識せず、「やっておいて」で済ませてしまう習慣が、日本国内の延長線で続いてしまうケースがあります。

言語のギャップ

ベトナム人経理に対して、英語または通訳を介して指示する場合、ニュアンスを十分に伝えきれず、「とりあえずやっておく」しかない状況が生まれやすい面もあります。

これらは、いずれも個人の問題というより、構造的に起きやすい状況です。だからこそ、管理者として「自分も無意識にやってしまっているかもしれない」という前提で、指示の出し方を意識的に見直すことが重要と考えます。

4. 管理者として意識したいポイント

無意識のNG指示を減らすために、管理者として取り組みやすいポイントをいくつかご紹介します。

「日本ではどうか」と「ベトナムではどうか」を分けて考える

指示を出す前に、「これは日本の感覚で出している指示か」「ベトナムの制度ではどう扱われるか」を意識的に区別する習慣を持つことが第一歩です。判断に迷う論点については、経理担当者に「ベトナムではどう処理するのが適切か」を確認することで、無意識のリスク指示を減らすことができます。

例外的・グレーな処理は書面で記録する

例外的な会計処理、グレーな税務判断、本社との特別な合意については、メール、稟議書、社内メモなどの形で記録を残すことを習慣化します。これは経理を守ると同時に、将来の税務調査・監査・引き継ぎにおける会社の説明力にもつながります。

グレーゾーンの判断を経理一人に背負わせない

損金算入の可否、VAT控除の可否、関連者間取引、収益・費用の認識時期など、判断に幅がある領域については、会計事務所や税務専門家を交えて検討し、「会社としての判断」として記録に残す形を取ることをお勧めします。経理担当者個人の判断に押し付けると、本人にとって職業上のリスクとなり、定着率にも影響します。

「とりあえず」「なんとか」を減らす

「とりあえず経費で」「なんとか処理しておいて」といった表現は、経理にとって最も困る指示の一つです。指示を出す前に、「具体的にどう処理してほしいのか」「証憑は揃っているか」「税務上のリスクはどうか」を整理してから伝えることで、経理の負担とリスクを大きく減らすことができます。

経理に「なぜ」を説明できる関係を作る

経理担当者と日々のコミュニケーションを取り、「なぜこの処理にしているのか」「なぜこの指示は難しいのか」を率直に話せる関係を作ることが、無意識のNG指示を減らす最も効果的な方法です。経理は、聞かれれば、その処理がベトナムの制度上どう扱われるかを丁寧に説明してくれることが多いと感じます。

おわりに

日本人管理者が無意識に出してしまう経理へのNG指示は、悪意ではなく、日本の経理運用の前提が体に染みついていることから生じる構造的な問題と言えます。しかし、ベトナムの制度上は、これらの指示が現地経理にとって税務リスク、法令違反リスク、職業上のリスクに直結することがあります。

優秀な経理人材ほど、こうしたリスクに敏感です。無意識のNG指示が積み重なると、経理は静かに疲弊し、転職を考え始めることもあります。

「日本ではどうか」と「ベトナムではどうか」を分けて考えること。例外的な処理は書面で記録すること。グレーな判断は経理一人に背負わせないこと。「とりあえず」「なんとか」を減らすこと。経理に「なぜ」を聞ける関係を作ること。

これらは、経理人材の定着だけでなく、会社自身を税務・法令リスクから守ることにも直結すると考えます。本稿が、自社の指示の出し方を改めて見直すきっかけになれば幸いです。

 

FAQ

Q1. 日本人管理者がベトナム会計・税務を体系的に学ぶ必要はあるのでしょうか?

すべての制度を細かく覚える必要はないと考えます。

ただし、「ベトナムでは損金算入や VAT 控除に証憑要件が厳しい」「VAS の法定帳簿は本社要件で書き換えられない」「経理担当者は会計記録に責任を負う立場にある」といった基本的な前提を理解しておくだけで、無意識のNG指示は大きく減らせると感じます。

詳細な判断は経理担当者や外部専門家に相談する前提で、管理者は「自分の指示がベトナム制度上どう扱われるか」を意識する習慣を持つことが重要と考えます。

Q2. 経理が「この指示には対応できません」と言ってきた場合、どう受け止めるべきですか?

まずは、なぜ対応できないのかを丁寧に聞くことが大切です。

経理が拒否的な反応を示す場合、その背景には税務リスク、法令違反リスク、証憑不足など、具体的な懸念があることがほとんどです。「面倒くさがっている」「融通が利かない」と受け止めるのではなく、リスクの早期警報として真剣に受け止める姿勢が、結果として会社を守ることにつながります。

そのうえで、必要であれば会計事務所や税務専門家を交えて、「会社としてどう判断するか」を整理することをお勧めします。

Q3. 本社の要求と現地経理の主張が食い違う場合、どちらを優先すべきですか?

法定帳簿はベトナム会計基準(VAS)に従う必要があるため、現地法定帳簿そのものを本社要件で書き換えることは適切ではありません。

実務的には、VAS に基づく法定帳簿を維持したうえで、本社レポーティング用に組替え・調整を行った「管理会計レポート」を別途作成することで、両者の要求を両立させることが一般的です。判断に迷う場合は、会計事務所や監査法人に相談し、本社と現地経理の双方が納得できる運用を整理することをお勧めします。

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この記事の著者

Accounting Works 編集部

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