求職者の方
企業の方

ベトナムのチーフアカウンタント採用・管理に失敗するとどうなる?

はじめに

ベトナムで事業を行う外資企業にとって、チーフアカウンタント(Chief Accountant / Kế toán trưởng)の任命は「制度対応」として知られています。一方で、チーフアカウンタントの採用や管理に失敗した場合、どのような影響が起きるか把握できていないことも見受けられる印象があります。本稿は企業管理者向けにチーフアカウンタントの採用・管理で失敗した際、企業にとってどのような問題に繋がるかをできる限りイメージしやすいように纏めました。

第1章:問題になるケース①:チーフアカウンタントに関する違反行為と罰金

チーフアカウンタントの任命・業務には違反行為と罰金が細かく定められています。以下はチーフアカウンタント任命に関する代表的な違反行為と罰金です。

代表的な違法行為(例) 罰則(法人)
チーフアカウンタントを任命しない/基準を満たさないチーフアカウンタントを任命する

(資格/要件不備等)

1,000万〜2,000万VND
チーフアカウンタントの変更を規定通り通知しない 1,000万〜2,000万VND
チーフアカウンタントの変更時に会計業務の引継ぎを実施しない 1,000万〜2,000万VND
財務諸表にチーフアカウンタントの署名がない 1,000万〜2,000万VND

これらは悪意がなくても起こり得ます。たとえば、チーフアカウンタントが退職したのに「チーフアカウンタント以外のメンバーで対応し繁忙期が終わってから」と先送りしたり、交代時の引継ぎを口頭だけで済ませたりするなどです。

また、上表の通り、チーフアカウンタントは財務諸表に対して署名をすることとなります。年度の途中でチーフアカウンタントが退職し後任者に変更することも起こりえますが、後任のチーフアカウンタントは年間財務諸表への署名が求められます。また、上表以外にも会計関連の違反行為と罰金は細かく規定されており、それらはチーフアカウンタント個人に対しても課されます。そのため、チーフアカウンタントが着任前期間の同年度の会計帳簿等について問題無いか確認したいと考えるのが自然です。企業側からすると、一度記帳済みのものを、再度入念にチェックする必要が無いと思われるかもしれませんが、確認時間を確保することは妥当と考えます。

実際のところ、ほとんどの日系企業において、上表のような違反行為は発生しないよう各社対応できている印象です。次章では、より発生してしまいやすいケースに触れていきたいと思います。

第2章:問題になるケース②:税務調査で多額の追徴課税・ペナルティ

日系企業のチーフアカウンタントは会計と税務の両方を担当することが多いですが、特に税務に問題が無いかを意識して採用・管理をしていくべきと思います。

ベトナムで外資企業に対する税務調査はとても厳しく行われます。税務調査で指摘を受けた際には、追徴課税に加え、罰金(通常は追徴課税×20%、脱税等と判定された場合は追徴課税×100~300%)、延滞料(0.03%/日)等が併せて課されるため、企業にとって大きな負担となります。さらに、近年の傾向として、税務当局は効率性を意識しており、事前に調査対象企業をスクリーニングしたうえで実際の調査に臨むため、調査での追徴税額も大きくなってきています。

このような背景を踏まえ、チーフアカウンタントには、税務調査で指摘を受けないよう日々管理していくことが求められます。そのためには、年々変わる法令をタイムリーにキャッチアップしていくことだけではなく、税務当局の考え方も把握していることが求められます。特に、ベトナムは法令上曖昧になっており、税務当局担当官によって解釈が異なる論点が多く存在しています。たとえば、法人税の税務調査において、法定残業時間を超過した分の残業代を損金否認するケースが近年多くなってきています。この指摘については、2020年頃から増えてきている印象ですが、特に新しい法令が出ているわけではなく、税務当局内で「労働法に反しているので損金否認すべき」という見解が強くなったことが背景にあります。このように、法令だけではなく、税務当局がどのような解釈をしているのかを把握し、情報を日々アップデートしている人に税務を任せるべきです。

また、チーフアカウンタントの任命にあたり、チーフアカウンタント資格を有していることは必須ですが、チーフアカウンタントの試験は難しくなく合格率は95%以上と言われており、チーフアカウンタント資格を有しているだけでは知識・経験が優れているかの判断には使えない点に留意が必要です。本人のこれまでの経験をしっかり確認したうえで実力を見極めることが大切となってきます。宣伝になってしまい恐縮ですが、弊社ではチーフアカウンタントを含む経理担当者採用時のスキルチェックサポートもやっているので、自社で能力の見極めが難しい場合はお役に立てるかと思います。

なお、会計については、外資企業は監査法人による外部監査が必須なので、最低でも年1回プロの目によるチェックが入ることとなります。もちろん日々の会計記帳等がしっかりできていないことは避けたいですが、会計上大きなミスがあったとしても、最悪外部監査の際に気づく機会があると言えます。一方、税務については、税務調査が入るまで第三者のチェックがされないことが一般的で、税務調査に入るまで問題に気が付かなかったという事態が起こりやすいといえます。さらに、前述の通り、税務当局の見解も時間が経つと変わってしまうこともあり、昔は正解だったが、今は不正解になってしまうようなこともあります。そのため、業務負荷やコストは増えてしまいますが、徹底的に対応するのであれば、定期的に自社内または外部のコンサルティング会社による税務レビューを実施することは良い手になると思います。

第3章:問題になるケース③:不正行為

続いて、大きな問題になるケースとしては、チーフアカウンタントが関与する不正行為です。不正行為の例としては、現預金の横領、贈賄、キックバック、脱税などです。チーフアカウンタント単独で不正をすることもあれば、チーフアカウンタントを巻き込み複数人が共謀することもあります。

不正が起こりやすい背景としては、チーフアカウンタントに職務や権限が集中しやすいことがあげられます。たとえば、支払依頼の取りまとめ、会計ソフトへの入力、銀行手続き、証憑原本の管理、承認フローの実態把握、取引先・会計事務所・監査人との窓口などです。起票・承認・銀行権限・出納・レビューが分離されていないと、不正が起きやすく、発覚も遅れてしまいます。また、外資企業の場合、外国人の管理者がベトナム語を理解できず、日々の何気ない社内の会話などから不正の兆候に気づくことができないという背景もあります。

私の知っているだけでも、日系企業でチーフアカウンタントが関与する不正被害にあってしまった事例を複数知っています。特に立ち上げ期や小規模の拠点で人手が限られている場合、日本人管理者が遠隔で管理している場合(例:出張ベースでベトナム拠点に来ているような場合など)に、このような状況は置きやすいです。

対策として、チーフアカウンタントを採用する際にコンプライアンス意識や人格の見極めは大切ですが、不正行為が起きないようにするためには仕組みを作っていくことも大切と考えます。理論上、企業内不正は「機会」、「動機」、「正当化」の3つが揃うと発生するとされています。不正防止の施策は諸々ありますが、まずは不正の「機会」を作らないために、職務分掌をしていくこと、それが難しい場合でも最終承認は社長がすること、日々の銀行取引記録や財務諸表などから異常が無いかしっかり確認・口出ししていくことは最低限すべきと考えます。

なお、企業代表者やチーフアカウンタントが不正会計・脱税等に関与または職務上の過失により重大な結果をもたらした場合、刑事罰が課されます。過去にはチーフアカウンタントが直接不正に関与していなくても、社員による巨額横領を見過ごしたり、形式的に承認していたことで、職務上の過失と判断され懲役刑を課された事例もあります。

こうした懲役刑などのニュースはチーフアカウンタント個人が責任を持って職務に当たることに繋がっていると考えますが、一方で過度に責任・プレッシャーを感じてしまうことも見受けられる印象です。私の知人で優秀な方も「チーフアカウンタントになることは怖い」と感じ、チーフアカウンタントにはなりたくないと考える方もおります。そういう背景もあり、会社によっては、「チーフアカウンタント手当」を用意していることもあります。

おわりに

ベトナムのチーフアカウンタントは「任命が必要」というだけでなく、運用次第で会社の税務リスクやガバナンスリスクの中心に立ちやすいポジションです。管理者としてはチーフアカウンタント資格の有無だけで安心せず、担当業務に相応する能力があるか見極めることが重要です。また、チーフアカウンタント一人に業務・情報・権限が集まりすぎないよう、承認フローや各種権限、レビュー線を設計することも大切となります。チーフアカウンタントの採用や管理をしていくうえで、本稿に記載の事項を参考にし大きな問題を防ぐことに繋がれば嬉しい限りです。

 

FAQ

Q1. ベトナムのチーフアカウンタントは必ず任命しないといけませんか?

実質必ず任命しないといけないと言えます。会社設立日から12カ月までは不要となっていますが、チーフアカウンタント代理人を任命しないとならず、その要件がほぼチーフアカウンタントと同じです。また、中小企業法上の零細企業に該当すれば任命不要ですが、実務上はチーフアカウンタントと同じ役割を有する人が必要となってきます。チーフアカウンタントの任命は、自社で任命する以外にも、会計事務所に外部委託する選択肢もあります。

 

Q2. チーフアカウンタント資格があれば、税務や監査も安心と考えてよいですか?

資格は重要な要件の一つですが、「資格がある=実務力が高い」とは限りません。外資企業では特に、税務調査対応、監査対応、内部統制、連結決算の考え方まで含めた実務経験が重要です。採用時は資格に加え具体的な経験(税務調査の準備・対応経験、監査法人との対応経験、自社と似た業種・業務での経験など)を確認することを推奨します。

 

Q3. 外資企業の税務調査が厳しいと言われるのはなぜですか?

税務当局内で外資企業とローカル企業の担当部署は異なります。基本的に外資企業の担当部署は専門知識や経験が高い担当官が多く、かつ高いノルマを課されている背景もあり、厳格かつ形式的な調査で追徴税額を徴収する傾向が強いです。さらに、外資企業は移転価格税制、駐在員の個人所得税、外国契約者税など、ローカル企業よりも取引が複雑・多様化することも一因と考えます。

💡 会計・税務のキャリアをさらに広げませんか?

Accounting Worksでは、会計・財務・税務の専門職向けに無料会員登録を受け付けています。
ご登録いただくと、最新の非公開求人情報やキャリアに役立つ情報をいち早くお届けします。

📌 最新情報は FacebookLinkedIn でも配信しています。

SHARE:
X
Facebook
LinkedIn

この記事の著者

Accounting Works 編集部

会計・税務・財務分野のキャリアに関する情報を発信しています。